「カワイイ」Transcript(セリフ文字起こし)

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ニャンコ先生: …なんだ? このあやしい妖気は
いったいどこから

多軌: もふもふ先生♡

ニャンコ先生: ぎゃあ!!

多軌: 先生… 今日もまたいちだんとつるふかで素敵ね♡

ニャンコ先生: タキ!!
せめて手順を踏んでから抱きしめんか 奇襲すな!!


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多軌: あれ? 今日はおひとりなの?

ニャンコ先生: …べつに いつもあいつと一緒にいるわけではないからな

<回想>
夏目: それじゃ 行ってくるよ

塔子: デパートでのお買い物には さすがに猫ちゃんは連れていけないの……ごめんね
お土産期待しててね ニャン吉くん

滋: しっかり留守番頼むぞニャンゴロー

夏目: おとなしくしてろよ先生!
<回想終>
ニャンコ先生: まったく忙しないやつらよ

多軌: さみしそう…
…ねえ先生
もしなにも予定がないなら うちでお茶でもしていかない?
七辻屋のお饅頭もあるわよ

ニャンコ先生: なにっ 饅頭!?


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ニャンコ先生: そこまでいうなら仕方ないな
呼ばれてやるとするか

多軌: ふふ やったぁ

ニャンコ先生: ……

多軌: どうかした?

ニャンコ先生: 他の妖の気配がする…
蔵のほうからだな

多軌: え!
もしかしてまた誰かが入り込んで出られなくなっているのかも
でも私では妖さんが視えないし…
先生、申し訳ないけど 一緒に蔵の中を確認してくれない?

ニャンコ先生: やれやれ
茶菓子をはずめよ、タキ。

げっ こいつは


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ニャンコ先生: つきひぐい

多軌: それって前に夏目くんをちっちゃくしちゃった妖さん!?

ニャンコ先生: ああ
…まだこの辺りにいたとはな
なぜおまえの家はよくわからん妖を呼び込むんだ

多軌: あう…

つきひぐい: …そこにいるのは家主の人間ですか
これはちょうどいい。
一夜の礼にこの蔵の中の物をひとつ若返らせてさしあげましょう
どれにしますか?

ニャンコ先生: 選択できたのか それ

つきひぐい: …以前
どこぞのものに教わったので
なにごとも新しくあればいいというものでもないと


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ニャンコ先生: …タキ
この蔵の中でなにか新しくしたいものはあるか?

多軌: え?
うーん…

――…ないわ。
この家にあるものはぜんぶ
大切な思い出あるものだから

つきひぐい: 潔い答えですが それでは困ります
頂いた礼は絶対。
となれば畢竟――

ニャンコ先生: …まずい


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ニャンコ先生: 逃げろタキ!

多軌: え?きゃあっ

つきひぐい: おや
あなたは新しくありたいほうでしたか
妖に術をかけたのは初めてですが…

多軌: せ、先生…!! 大丈夫!?

効果: !?

つきひぐい: ふむ…とくに変わりはないようですな

ニャンコ先生: なんだ? なにが起きた!?

多軌: ……ど
どうしよう!?
先生がこんなに蠱惑的で麗しくもかわいすぎる姿になってしまうなんて!!

ニャンコ先生&つきひぐい: は?

ニャンコ先生: というか


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ニャンコ先生: 誰だ、お前?
私は祠に封印されていたはず
なぜこんなところに?

多軌: ああっやっぱり先生も記憶が…

つきひぐい: ――…術は成功しているようですね
ならばこれを礼とさせていただきましょう
では…

ニャンコ先生: おいまて
なんだお前は。
私に、何をした?

つきひぐい: …あなたほどの妖ならばすぐにとける術です
――自分がそう望めば。

ニャンコ先生: おい!答えになってないぞ
待っ…

多軌: 先生!
急にどうしたの?落ち着いて…!


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多軌: なんだかいつもより冷たい…?
身体はなんともない?
どこか痛いとか…

ニャンコ先生: ……さっきから
馴れ馴れしいぞ人間

多軌: うっ

ニャンコ先生: 人間ごときが生意気にも妖《わたし》にべたべた触れるな 気色悪い
あまり舐めると次はこんな程度では済ま…

多軌: ニャンコ先生
本当に…忘れてしまったの?
――夏目くんのことも?


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ニャンコ先生モノローグ: ナツメ…
レイコのことか?
…ちがうような
……なんだ?その名を聞くと
ざわざわして落ち着かない――

多軌: ――…きっと
夏目くんに会えば思い出すわ
ぜんぶ

ニャンコ先生: で。
そのナツメとやらはどこにいる?

多軌: あ。

多軌: お出かけ中の夏目くんが帰ってくるまで時間があるし
ひとまずうちでゆっくりしてね先生

ニャンコ先生: …確かに
記憶の覚束ない状態でそこらを動き回るのも危険かもしれんな

ニャンコ先生モノローグ: 「ナツメ」の友人だというこの小娘から
もっと詳しく情報を引き出さねば…

ニャンコ先生: しかしこの家


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ニャンコ先生: 無造作に術を掛け過ぎだろ…
ねこも歩けば結界に当たるぞ

多軌: う。
また迷い込んでしまう妖さんが出ないよう
自己流で少しずつ術式を整理してはいるのだけど…

ニャンコ先生: それでこの状態なら
才能ないぞお前。

ニャンコ先生モノローグ: 妖除けの呪だろうに私に対してガバガバすぎる…
どこへ行こうが歓迎モードとは
…私がよく招かれているというのは本当のようだ

多軌: すぐにお茶の用意をするわね
先生は先にお部屋に行っても…

ニャンコ先生: さっきから気になっていたが
お前、なぜ私を先生と呼ぶ?
私はそんな名ではないぞ

多軌: …ああ


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多軌: 本当は白くてきれいなモフモフの姿で
それに見合う名前もあるのよね
前に聞いたわ

ニャンコ先生モノローグ: そこまで話しているというのか?
この私が…こんな小娘に?

多軌: でもね 私にとっては
あなたはニャンコ先生なの

ニャンコ先生: 小娘…

多軌: 「タキ」

ニャンコ先生: ん?

多軌: 私の名前。多軌透よ

ニャンコ先生: …妖に軽々に名を明かすのは危険だと知らないのか?

多軌: …知ってるわ


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<回想>
多軌: 猫ちゃん!

ニャンコ先生: 小娘か。

多軌: なにかあったの!?

ニャンコ先生: 緊急事態だ
例のヤツに夏目が連れ去られた

多軌: な…っ、はやく見つけないと!

ニャンコ先生: おい、お前のような役立たずが来ても意味など…

多軌: ええ。でも囮か餌くらいにはなるかもしれないわ

ニャンコ先生: …命の保証もないのだぞ

多軌: そんな危険に
やさしい彼を巻き込んでしまっているのは私のほうなのよ
―…本当は、……独りでやらないといけなかったのに。


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ニャンコ先生: ……ちっ 似たもの同士め

多軌: え?

ニャンコ先生: こっちだ!付いてこい

多軌: …ありがとう 猫ちゃん

ニャンコ先生: 「ニャンコ先生」と呼べ
タキ
<回想終>

多軌: ――先生がやさしい妖だってこと
もう知っているの

七辻屋のお饅頭が大好きってこともね

ニャンコ先生: ……ならそれをはやくよこせ

多軌: ふふ もちろん


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多軌: 私の部屋に夏目くんたちの写真があるの
見れば記憶を思い出すきっかけになると思うわ

多軌: 先生が自分の部屋にいるのって…
なんだかどきどきするね

ニャンコ先生: なにが?

ニャンコ先生: ナツメとかいう男《ヤツ》を部屋に連れ込んだことはないのか?

多軌: ……えーと あ、アルバムはどこかしら

ニャンコ先生: む? なんだこのぶっさいくな人形は

多軌: あっ それは…!
寝るときも先生が傍にいるのいいなあって…
前に作らせてもらったの
ちゃんと先生《ほんにん》にも許可は取ってるわ!

注釈: ※単行本10巻参照。

ニャンコ先生: なにを許可しとるんだ私は


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ニャンコ先生モノローグ: しかしなにやら 直近にも それらしきことがあったような……

ニャンコ先生: もしかして私って……かなりの人気者?

多軌: 当然よ! 可愛すぎるもの!!

ニャンコ先生: うーむ
こんな珍奇な姿を気に入るとは
ヒトとはおかしなものだな

多軌: ……私は
その姿を不器量だと思ったことは一度もないけど
でも もしかしたら逆なのかも
とても大切で、だいすきだから かわいくみえるんだわ。


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ニャンコ先生: ……

多軌: あったわ
ほら、この写真
真ん中にいる線の細い男の子が夏目くんよ

ニャンコ先生: はあ?
このもやしみたいなひょろひょろか?

まるでひ弱なマッチ棒だな
こんな陰気そうな奴とつるむなど正気か?
趣味がわるいな小娘

多軌: ……
先生を撮った写真もあるわよ

ニャンコ先生: この見るからに緩みきったまあるいのが……私!?

多軌: ふふ
あ、これは文化祭のときの

ニャンコ先生: かなり疲れきった笑顔をしたもやしがいるな

多軌: かわいいわよね
こっちのもかわいくておすすめ

ニャンコ先生: …やたら多いな私とこいつのツーショット
いつ撮ったんだ?


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ニャンコ先生: まあ…
たしかにこうしてみると
見覚えはかなりある顔だな…
これが…ナツメ……

ニャンコ先生モノローグ: レイコによく似た
けれどレイコとは違う――

夏目の声: 先生

ニャンコ先生


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多軌: …先生?

ニャンコ先生: …帰らなければ

多軌: え?

ニャンコ先生: ――…家の留守を任されていたんだった
塔子と滋が土産を約束しているし
出迎えて受け取ってやらねば
夏目のやつにどやされてしまうからな


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多軌: ええ
おかえりなさい ニャンコ先生

ニャンコ先生: ……タキ
その、……
…まだ痛むか?

多軌: ぜんぜん大丈夫だけど…

ニャンコ先生: ……けど、なんだ?

多軌: ぎゅってしてもいい?

ニャンコ先生: ……

多軌: ふふ、くすぐったい

ニャンコ先生: ありがとう


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夏目:

塔子: あら ニャン吉くん!お出迎えしてくれたの?

夏目: ただいま ニャンコ先生

滋: よしよし
留守番えらいぞ ニャンゴロー
ひとりでさみしくなかったか?

塔子: お家でかわいいねこちゃんが待ってると思ったら
早く帰りたくなっちゃった
おいしいものたくさん買ってきたからね

夏目: あとで土産話も聞いてよ 先生
今日デパートで塔子さんがさ…


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多軌の声: 大好きだから――

ニャンコ先生モノローグ: いいや タキ

ちっとも かわいくなんて ないさ


カワイイ/終


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あとがき

「カワイイ」
1話の、不気味よりで置物感のある異質なニャンコ先生が好きです。
そしておそらく、その姿こそをかわいいと愛している多軌さんの一般的ではない志向が、すき。

原作でどんどん尖りがなくなっていく先生の絵柄の変化を、ただの手癖ではなく
「周囲から猫として見られていくことで器ごと変容している」と解釈して
丸くなったなあ…と感慨深くなっていたので、ちょっとつきひぐわせてみました。

原作においては、ニャンコ先生が名を明かした以降、多軌さんが先生を呼ぶときに
代名詞を使ってないところに萌えています。(「先生」の前に形容詞つける場合もあるけど)
他のキャラは、ニャン吉とかポン太とか適当に愛称付けて呼んでるのに多軌さんだけは
ニャンコ先生という「名前」を尊重しているところに拘りを感じます。
名を呼べない呪いにかかっていた彼女が二度目に呼ぶことができた相手。
先生はきっと夏目と同じくらい、彼女にとって特別な存在なんだろうな、と思っています。

なんだかんだで、またしても余裕のない進行で描くことになり
自業自得で苦しんでいましたが、なんとか形になって良かったです。
少しでもお楽しみいただければ幸いでございます。
ここまでお読みくださり、ありがとうございました。


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「カワイイ」
2025年5月15日発行
EFR 宙 http://efr.suppa.jp/
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